← Back to paragraphs
比較宗教学における聖なるものの概念
N1比較宗教学
比較宗教学は、個々の宗教の教義を単独に研究するかたわら、複数の伝統に共通する構造を抽出しようとする学問である。各文化における「聖なるもの」の概念は、表面的な儀礼の相違にもかかわらず、驚くほど類似した構造を示すことがある。たとえば、境界を越える行為を通じて俗なる領域から聖なる領域へと移行するという通過儀礼のパターンは、洋の東西を問わずに観察される。しかし、こうした比較の手法には、研究者自身の文化的な前提を無意識のうちに持ち込んでしまうという陥穽も存在する。特定の宗教体系を基準として他の伝統を裁くようなことは、学者としてあるまじき態度と言わざるを得ない。それゆえ、いかなる伝統たりとも、その内側からの理解を軽視してはならないという原則が、この分野では繰り返し強調されてきた。