← Back to paragraphs

サイバー空間における国家主権

N1

Cybersecurity and national sovereignty

サイバー空間における国家主権の問題は、従来の国際法の枠組みをもってしては到底捉えきれない複雑さを呈している。物理的な国境をものともせず展開されるサイバー攻撃は、瞬時にして国家の基幹インフラを麻痺させかねない脅威となっている。攻撃者の匿名性と相まって、攻撃主体を特定することは極めて困難極まりない作業である。国家たるもの、自国の情報インフラを防衛する責務を負っているが、その手段如何によっては他国の主権を侵害しかねない危うさをはらんでいる。例えば、報復措置として敵対的なサイバー作戦を実行することは、時に武力行使とみなされ、国際紛争を招かんがための火種となり得る。民間企業の技術力をよそに、国家がすべてのサイバー脅威に対処することはもはや不可能に近い。それゆえ、官民連携の枠組みを構築せずにはおかない状況が生まれつつある。国際社会は、サイバー空間における行動規範を策定するべく、幾度となく協議を重ねてきたが、各国の利害対立により合意形成は難航を極めている。一国たりとも単独でこの問題を解決することはできず、多国間協力が不可欠であることは論を俟たない。サイバー犯罪の被害に遭った企業や個人が泣き寝入りを余儀なくされる現状を看過することは、国家安全保障の観点からも許されるべからざる事態である。技術の進歩如何にかかわらず、法制度の整備が後手に回っている現実は憂慮に堪えない。