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法哲学における自然法と実定法の相克
N1Legal Philosophy
法哲学の伝統的な対立軸の一つに、法の妥当性を道徳的正しさに求める自然法論と、権威ある機関が制定した法をもって法とみなす法実証主義との相克がある。自然法論者からすれば、いかに適正な手続きを経て制定された法であろうとも、その内容が正義に著しく反するならば、それはもはや法と呼ぶに値しないということになる。ナチス政権下で制定された悪法が合法性を装って人道に対する罪を犯した歴史的経験に鑑みれば、この主張には相応の説得力があると言わざるを得ない。これに対し法実証主義者は、法と道徳とを峻別しなければ、法の予測可能性という根幹的価値が損なわれると反論する。裁判官が自らの道徳的信念のみに基づいて法の効力を否定し得るとすれば、法の支配そのものが恣意的な統治へと堕する危険をはらむというのである。もっとも、両陣営とも、極端な悪法を前にしてなお実定法への服従を無条件に説くわけではなく、その対立は見かけほど先鋭ではないという指摘もある。現代の立憲主義国家においては、実定法の中に人権規範を組み込むことで、両者の緊張関係を緩和する試みがなされてきた。結局のところ、法とは何かという根源的な問いに対し、一義的な答えを出すことは容易ではないと言わざるを得ない。